文具はもちろん、調理や園芸、工芸用などさまざまな種類があり、私たちにとって身近な道具、はさみ。用途に応じて形が異なるはさみですが、そのはじまりは一体どんな用途で、どんな形をしていたのでしょうか。はさみのはじまりとその歴史をご紹介します。
羊毛刈りから始まったはさみの歴史
さまざまな用途があるはさみですが、その形は大きく分けると2種類です。1つは着物や浴衣を仕立てる際の和裁で使われる握りばさみのようなU字型のはさみ。もう1つは一般的に目にすることが多い洋ばさみとも言われるX字型のもの。このうち、歴史が古く、現状で確認できる最古のはさみの形はU字型だったと言われています。
世界最古のはさみは紀元前1000年ごろ、ギリシアで作られたもので、羊飼いなどが羊毛刈りに利用していたものではないかと考えられています。
そんな歴史の古いU字型のはさみですが、現在ではほとんど使われておらず、和裁などほぼ日本でのみ利用されているだけになっているそうです。
日本とはさみ
紀元前というはるか昔から存在するはさみ。そのはさみが初めて日本に伝来したのは、6世紀、中国の握りばさみだったと言われています。最古のものとしては、古墳から出土したものがあるほか、あの源頼朝の妻・北条政子のものとされる菊の紋章入りの握りばさみが伝わっています。
では、洋ばさみはというと、正倉院からX字型のはさみが見つかっていることから、奈良時代にはすでに伝わっていたと考えられます。また、鉄砲伝来のタイミングでも、現在と同じ形の洋ばさみが日本に伝わったそう。しかし、あまり普及せず、生花や植木の手入れ用や、外科手術用など、特殊な用途に用いられることになります。現在のように広く使われることになるのは、明治時代以降まで待たなくてはなりませんでした。
明治時代に洋ばさみが普及した要因としては、「文明開化」と「廃刀令」が関係しています。
文明開化により、海外から洋服用の厚い生地が入ってきたと同時に、その生地を切るための洋ばさみも大量に輸入されはじめました。そして、廃刀令により、刀鍛冶が刀ではなく、包丁など日常の刃物を作るようになったのです。
このとき日本に入ってきたはさみは外国人向けのため、日本人には大きく重かったそう。そこで刀鍛冶がその技術を活かして、日本人向けに改良していくことで、洋ばさみが普及していったのです。
そのあとも刀鍛冶は、刀の製作で培った技術と経験を活かし、はさみの改良を進めていき、今日に至ります。
とても身近なはさみという道具ですが、そこには3000年以上もの長い歴史があります。その中でも比較的歴史が浅い日本の技術は、いま世界でも高い評価を受けています。その評価の理由は、日本が誇る刀鍛冶の技術を引き継いできたからなのかもしれません。
今度、はさみを使うときはそんなはさみの歴史に思いをはせてみてはいかがでしょうか?