現在、一般的に流通しているX字型のはさみ。洋ばさみとも呼ばれるこのはさみは日本では明治時代以降に普及したと言われる、比較的歴史の浅い刃物です。しかし、そんな日本の製品が、理美容師など世界中のこだわりを持った使用者の間で高い評価を受けているのです。いったい、日本のはさみはなにが違うのでしょうか?日本の洋ばさみの発展の歴史について振り返ってみたいと思います。
日本の洋ばさみは刀鍛冶から
日本で本格的に洋ばさみが普及しはじめたのは、明治維新のあとのこと。文明開化により、海外から洋装用のラシャ生地が輸入されはじめ、それを切るための西洋製の洋ばさみ=ラシャ切りばさみが大量に入ってきました。また、廃刀令により刀の鍛造を行えなくなってしまった刀鍛冶が新たな仕事として、はさみをはじめとした家庭用刃物の製作をするようになったことも大きく関係しています。
中でも日本の洋ばさみのはじまりとされているのが、吉田弥十郎という刀鍛冶が作ったと言われる江戸ばさみです。海外から入ってきたラシャ切りばさみは、外国人向けに作られていたこともあり、大きく重く、日本人には使いづらい部分がありました。弥十郎は海外のはさみを参考により日本人に使いやすく、はさみを改良していったと言われています。
そのほかにも刃物の街で有名な岐阜県関市や、兵庫県小野市(播州)などで、刀鍛冶の技法を生かした独自のはさみが誕生しています。
実は繊細なはさみの構造
刃物でものを挟んで裁断するはさみ。一見単純そうな作りですが、実はその製造は非常に繊細で高度な技術が必要です。中でも裁ちばさみや理美容用のはさみは特に繊細さが求められます。
はさみの構造で、特徴的なものが「ソリ」「裏スキ」「ヒネリ」。これらの構造は、はさみの切れ味を最大限高めるために、2枚の刃で挟むときの接触面を減らし、点接触にするための技術です。
裁ちばさみなどを見てみると、刃と刃の間に隙間ができていることや、刃の背側から刃側にかけて傾くようにひねりを加えられていることがわかると思います。こうした接触面の絶妙な調整には高い技術が必要です。
切れ味に定評のある日本刀を作り続けてきた刀鍛冶が、その技術を活かして進化させてきたのが日本のはさみです。日本では、刀鍛冶の技術を途切れさせることなく受け継ぎ、今も手作業にこだわるはさみメーカーが数多く存在します。こうした技術の積み重ねが高い評価につながっているのかもしれません。
文具のはさみも、上記のような技術を応用しつつ、様々な進化を遂げています。
たとえばプラスのフィットカットカーブもその一つ。
フィットカットカーブは、一見普通のはさみですが、刃の形がカーブしていて、はさみの刃元から刃先までどこを使っても、約30度という切断に最適な刃の開き角度をキープします。
裁ちばさみにせよ、文具用のはさみにせよ、よりよいものを作り上げようと、創意工夫を続ける日本人のものづくり精神が、日本のはさみの評価を高めているのかもしれません。