2022年は、はさみ「フィットカットカーブ」の発売から10年を記念するアニバーサリーイヤー。そこで、文具トークライブユニット「ブング・ジャム」のお三方に、フィットカットカーブのことについて、あれこれ語っていただくという、開発者冥利に尽きるスペシャル座談会を企画しました。全4回にわたる座談会を読めば、フィットカットカーブはもちろん、はさみの見方まで変わるかも!
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インタビュー
発売10周年記念 スペシャル座談会<第1回>
語る人
- 高畑正幸 さん
- テレビ東京系『TVチャンピオン全国文房具通選手権』にて前人未到の三連覇を果たした最強の文具王。サンスター文具にて10年間、商品開発やマーケティングを経験し退社。現在は同社とプロ契約を結んで活動中。
- きだてたく さん
- 雑誌やウェブにて、最新機能系から玩具系色物まで、なんでも使い倒してレビューする文具ライター。また、珍妙でバカバカしい「色物文具=イロブン」を約5,000点以上所持する、たぶん世界一の収集家でもある。
- 他故壁氏 さん
- ラジオ番組「他故となおみのブンボーグ大作戦!」パーソナリティで、文房具使いの達人。様々な筆記具を駆使して、文字を書いたり、絵を描いたりするのが趣味。古いものから新しいものまで、文房具の細かなデータに詳しい。
トークテーマ
フィットカットカーブ
2012年1月発売開始。10年間で累計3600万本を売り上げ、プラスの顔ともいえる文具に。スタンダードタイプから年々シリーズを増やし、料理はさみ、ジュニア、携帯用はさみなど現在のラインアップは全16品。
※2012年1月の発売以来、シリーズ累計3,500万本以上の売上を達成(2021年10月現在)
「フィットカットカーブ 発売10周年」と聞いて思うこと
- きだて
- 僕と文具王(高畑)が、会社員からフリーランスになったのが、ちょうど2012年。僕らはフィットカットカーブと同期なんだよ(笑)。
- 高畑
- 確かに。フリーの駆け出しの頃、文具を紹介する記事や店頭販売で、最初にお世話になったイメージがある。
- きだて
- 雑誌のヒット商品番付に取り上げられてから、フィットカットカーブのメディア露出がすごく増えて。当時、僕も「最新のすごい文房具を教えてください」という依頼があるたびに「コレ、すごいんですよ」って紹介してたし。
- 高畑
- 「ベルヌーイカーブが…」と言うと、だいたい企画が通ったよね。テレビはカメラが寄ってくれるから、「ベルヌーイカーブが…」という話がしやすいんだけど、店頭の実演販売だと、お客さんがちょっと離れているから、こうやって大きな模型を作ってですね(笑)。(と言いながら、自作のフィットカットカーブ特大模型を取り出す)
これと、それまでスタンダードだったストレート刃のはさみの模型を比べて、「ストレートのハサミだと、刃先に向かうほど角度が狭くなるけど、フィットカットカーブは根元から刃先まで、開きの角度が変わらないからよく切れるんです」という説明をね。フィットカットカーブを語って聞かせる時間は、当時、僕が日本で一番長かったんじゃないかな(笑)。
- きだて
- めちゃめちゃお世話になったよね。そういう意味でも、思い出深い商品。
- 他故
- フィットカットカーブがすごいのは、よく切れるはさみを“普及価格帯”で売ったところじゃない? 「コレなら買おう、コレなら買える!」って、みんなが買い替えた。
- きだて
- 日本中のご家庭で20年、30年ずっと使われ続けてたはさみが、2012年に一気に入れ替わった感じはあるよね。なにより、はさみを“指名買い”するようになった、というのがこれまで無かった話で。
- 高畑
- 名前を覚えていなくても、「昨日、ニュースに出てたやつ」と言えばたどり着けるほど話題性があったし、爆発的に周知された商品だった。
「フィットカットカーブ」のお気に入りのポイント
- きだて
- 僕はやっぱり価格かな。正直、はさみとしてはかなり安い価格帯でしょ。それでこの切れ味っていうのは、相当にすごいことなんですよ。
- 他故
- 僕もそう。うちの家族は、何度言っても、はさみを元あった場所に戻さない(笑)。行方知れずのはさみは数知れず…。だから、家の至る所、はさみを使うすべての場所に、1本ずつ置いておける安くてよく切れるはさみが、ずっと欲しかったんだ。
- 高畑
- フィットカットカーブの偉大な功績は、この刃に「ベルヌーイカーブ」という名前を与えたことだと思う。これ以前にも、刃が若干カーブしていて、先端まで開きの角度が変わらないはさみが、なかったわけじゃない。ただ、それは職人の感覚や昔からの慣習でそうなっていただけ。
この刃の形を、対数螺旋(ベルヌーイの螺旋)であると数学的に定義して、ベルヌーイカーブと名付けたことが、最高に意味のあることだったと思う。フィットカットカーブの登場によって、よく切れるはさみが、経験の工学から体系化された科学になって、誰もが再現できるようになった。液体力学で有名な甥のダニエル・ベルヌーイとよく間違えられているけどね。
- 開発者
- 発売にあたり、ベルヌーイカーブという言葉を残すかどうかは、すごく議論したところです。でも、根拠があってやったことだから、やっぱり入れようという結論に。覚えてもらえないかもしれないけど、カーブ刃ではなく、ベルヌーイカーブとしました。
- きだて
- そうすることによって、必殺技を手に入れたわけですね。
- 他故
- 技に名前がついた。
- きだて
- プロレスの技と同じでね。単に「腕を取って投げた」じゃなくて「アームホイップ」という技名があるからこそ、人に伝えやすいし、ありがたみもあるでしょ(笑)。
あと、数学的に定義できるベルヌーイカーブだからこそ、工業製品として再現できる、というのは大きかった。職人の経験と勘が要らない工業製品だからこそ、安い値段で作れるんだよね。