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はさコレ|HASA-KORE

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文具はさみの日
トップページ インタビュー イワサキデザインスタジオの岩崎一郎さんが語る「フィットカットカーブ スタンダード」開発秘話<後編>
INTERVIEW
イワサキデザインスタジオの岩崎一郎さんが語る
「フィットカットカーブ スタンダード」開発秘話<後編>
インタビュー
インタビュー

「フィットカットカーブ スタンダード」の握りやすく疲れにくく、且つ刃に力が伝わりやすいはさみのデザインを手掛けたのは、国内外を問わず様々な企業のプロダクトデザインを手掛ける、イワサキデザインスタジオの岩崎一郎さんです。
シンプルでいて親しみを感じさせる「感覚的な造形」と、道具として実用的で使いやすい「機能的な造形」。そのどちらかに偏ることなく、高次元で双方を融合させる岩崎さんのデザインが、フィットカットカーブを10年間も売れ続けるはさみにしました。

そんな岩崎さんに、10年ぶりにして初のインタビューを行いました。後編では、はさみらしいシンプルなデザインにおさめられた複雑な要素について聞きました。長く売れ続ける「良いもの」とはどういうものなのか。ヒットメーカーとして国内外から注目されるプロダクトデザイナー・岩崎一郎さんの回答は必見です。

ーー
デザイン時の「こだわり」と「苦労」を教えてください。
岩崎

「フィットカットカーブ スタンダード」は、はさみらしいシンプルなデザインですが、その中に「たくさんの複雑な要素」が詰まっています。

開発初期に頂いた資料によると「家庭用はさみで薄い紙を切る機会はわずか8%」で、硬く厚い素材やプラスチック、段ボール、ビニール、布、観葉植物など「多種多様なものが92%」とのこと。この情報から、想像以上に「指あたりへの配慮」が大事だと理解し、手や指にかかる負担を減らすため、「指の進入角度」「指に触れる面積」「様々な持ち方への配慮」等、持ちやすさと仕様にともなう感覚を徹底的に検証しました。

この検証は思った以上に繊細で発見の多い作業で、何度も何度も繰り返し模型を作って、実際に刃をつけて試しては、模型をコンマ数ミリ単位で削ったり、逆に盛ったりしながら、ようやくストレスなく、サクサクした切り心地を実感できるグリップ形状を見つけ出しました。
私たちが見つけた最適解である「ストレスなく、心地良い形状」は、実際にグリップを握ってはさみを使うユーザーを、その度に感動させるようなものではありません。しかし、良くできているものというのは、そのくらい日常の許容範囲にラフに心地よく馴染むものなのです。
私はあるレンズ・カメラメーカーのデザインも手掛けていますが、はさみ同様、指先で操作するレンズもストレスなく、当たり前のように正確に呼応してくれるというのが理想です。

ーー
具体的にどの部分に注力することで、コンセプトを実現されたのでしょうか?
岩崎
前モデルにはリング外側に小指を添える突起がありました。この突起に小指を添えることで、より安定感を高める効果があったそうです。しかし、普段使いのはさみを目指す上では、この突起をなくし、小指を自由にして、ラフに無意識にサクサク切れる感覚を優先させるべきだと信じていました。最終的には、小指を添えて使用するユーザーにも配慮し、突起があった箇所に指あたりを良くするための滑り止め(エラストマー素材)を配したデザインとしました。
ーー
スタンダードの2年後に発売した「フィットカットカーブ ジュニア」のデザインも手掛けていただきました。子ども向けということで、意識した点などがあれば教えてください。
岩崎
子ども向けということもあり、自分たちの手や感覚で検証できないことがもどかしかったです。ただ、大人用であるフィットカットカーブを隅々まで知り尽くすまでに検証したので、その経験を元に調整のポイントを定めつつ、実際、私の子供達に模型を試してもらいながら進めました。
子供も検証のお手伝いに慣れてくると、ポイントを心得て、「もう少しグリップと指の間に遊びが欲しい」だとか、「これだと遊びがなさすぎる」だとか、繰り返すごとにコメントが鋭くなっていったのには驚きましたし、確実に使いやすい形状に近づいていっているという実感が得られました。
また、ちょうど息子が小学校に入って、初めてのはさみを購入するタイミングだったので、子供の手に優しく収まりやすい、丸みを帯びた形状が良いと思いながらデザインしました。ただし、色については子ども向けにも、もっと様々なニュアンスの色があってもよいのではないかと思っています。たとえば、刃物ならではの安全面からの配色などアプローチの工夫が必要です。
ーー
フィットカットカーブシリーズが、「発売から10周年」、「文具はさみ売り上げNo.1」と聞いて、デザイナーとして何を思われますか?
岩崎

はさみは世の中にたくさんありますが、いざ日常使いのはさみを買うとなると、意外と選択肢を求めないもので、必然的に、近くのコンビニやスーパーに並んだ数本のはさみが候補となります。
コンビニやスーパーで購入できるプロダクトの多くが、機能や使用感がしっかりと検証され、細部にわたって配慮されたデザインがされているということに、多くの人は気付いていないかもしれませんが、気付いていなくても、知らず知らずのうちに「良いもの」に触れているということが大切です。

長い間売れ続けているというのは、身近な場所に、正しい価格で、良質なものが売られている所以だと思います。デザイナーとして、どこにでも売られていて、気軽に買える値段の製品を手掛けられたことは光栄です。

今回、10周年を記念して、グリップが黒のモデルと白のモデルが限定発売されます。実は、はさみの定番色という意味でも、また周辺の環境に馴染みやすい色としても、開発当初から黒が一番必要だとプラスさんへ提案していました。10年経ってようやくではありますが、ユーザーの方にも定番中の定番をお届けできることを大変嬉しく思います。

ーー
最後に。フィットカットカーブの「次の10年に向けて」、メッセージをいただけますか。
岩崎
人間の手と切る行為自体は今も昔もさほど変わりませんが、はさみを使う場面や切るもの、そして、その材質は絶えず時代とともに変化しています。フィットカットカーブは、そういった時代の変化に対応しつつ、その時代に合わせたスタンダードであり続けて欲しいと思っています。

※ベルヌーイカーブ刃は、プラス(株)の設計・意匠です

岩崎一郎
イワサキデザインスタジオ代表
国内外の企業と協働し、テーブルウェアから照明器具、家具、デジタルカメラやスマートフォンなどの精密電子機器まで、プロダクト全般のデザインを手がけている。
グッドデザイン賞・金賞、iFデザイン賞・金賞、Red Dotデザイン賞 Best of the Bestなど、主要国際デザイン賞を多数受賞。
東京藝術大学、多摩美術大学非常勤講師。
www.iwasaki-design-studio.net