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はさコレ|HASA-KORE

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文具はさみの日
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INTERVIEW
はさコレ職業インタビュー:銀座テーラー
全てはお客様の満足のために。
一流のテーラーにとってのはさみとは。
インタビュー

文具として私たちと関わりの深いはさみ。一方で、美容師や植木職人など、様々な職業で特別な道具として活躍しているものでもあります。お客様にピッタリあった世界でひとつのスーツを作り出す、「Tailorテーラー」もはさみが重要な役割を担う仕事の1つ。今回は創業85年の歴史を持つ、銀座テーラーの裁断長、中山由紀雄さんにお話を伺い、文具以外のはさみの魅力に迫ります。

インタビュー

スーツという工芸品を生み出す、銀座テーラー

今回お話を伺った銀座テーラー。1935年の創業という日本でも指折りの老舗で、高松宮技術奨励賞や、世界高級紳士服展で4度の日本代表に選ばれるなど、技術的にも優れた日本が世界に誇るテーラーです。
銀座テーラーは合理化が進む時代の中でも、創業以来、手縫い・手裁断にこだわりを持っています。1人の職人が責任を持って1着を縫い上げる「丸縫いまるぬい」という手法で、工場製品というよりは、1つの工芸品を創り出すようにスーツ作りを行っているのです。そうすることで、生地の特徴や糸の性質などを総合的に考慮しながら制作できるため、全体的にバランスのよい高品質なスーツを作ることができます。
こうした高い技術と、こだわりのクラフトマンシップから、数々の政財界人や著名人など、日本のみならず世界中の人々にも愛され続けているのです。

そんな銀座テーラーにあって、裁断長という立場にいらっしゃるのが、今回、お話を伺った中山さん。裁断長とは布を裁断する裁断士の中でも、モーニングやタキシードなど、あらゆる種類の洋服、様々な生地を扱う経験を経て、初めて就くことのできる立場です。テーラーにおける裁断作業を知り尽くした中山さんに、はさみにかける思いを伺いました。

テーラーの根幹・裁断士の業務とは?

テーラーの作業工程は、まず採寸からはじまり、採寸をもとにした型紙作り、仮縫い作業、型紙修正を行い、ジャケット・ベスト・パンツ、その他ボタンなどの付属品を決め、その後、仕立てとなります。

裁断士は、この工程のうち、採寸から型紙修正までを行う職種のこと。
裁断士と言っても、求められるのは単純に布を切る技術だけではなく、採寸に立ち会い、お客様の体の特徴や、立ち振る舞いのクセ、希望などを聞き取り、それを的確に図面に起こす能力が必要になってきます。経験豊富な中山さんはオーダーシートを見た時点で、お客様の体の特徴などをある程度把握できるそうです。
裁断士が扱う領域は、まさにテーラーの本質とも言える部分なのです。

思い描いたラインを生み出すために、はさみのメンテナンスは必須!

そんなスーツ作りの根幹となる裁断士の長を務める中山さんは、作業において、2本のはさみを使っているそうで、実際にそのはさみを見せていただきました。

1つは型紙を切るために使用する紙ばさみ、もう1つは布を裁断するための裁ちばさみ。どちらも『庄三郎』というはさみで、20年以上メンテナンスを繰り返しながら使い続けているとのことです。中でも裁ちばさみは非常に重要で、「絶対に人に貸さない。社長に頼まれても貸さないよ」と冗談を交えながらも、その大切さを語ってくれました。
その理由は、裁断したあとの切れ面。この切れ面を美しくするために、はさみの切れ味がとても重要になってきます。よく切れるはさみで切ると生地の切り口がスッキリして、スーツの見栄えが非常によくなるのだとか。反対に切れ味が悪くなると、生地の切り口がガタガタし、せっかく引いた型紙のラインにも狂いが出てきてしまうそうです。同じように、型紙を思い描いた通りに切るためにも、紙はさみの切れ味は重要です。

中山さんは、はさみの切れ味を保つために、使用後は必ず布で乾拭きを行ったり、半年から1年の間隔で研師とぎしに研ぎ直してもらったりとメンテナンスを欠かさないそうです。特に、かみ合わせが崩れないよう、落とさないように普段から慎重に取り扱っているのだとか。
思う通りのスーツを作り上げるためにも、はさみのメンテナンスは欠かせない作業のようです。

1着のスーツを作るように、全ての工程がつながっていく。裁断はその1つ。

はさみは重要な道具であるとしつつも、あくまで1つの工程であると語る中山さん。テーラーの仕事に対する思いを教えていただきました。

「製図した線の通りに組み立てていくと、全ての線がスーツの形につながっていくんですよ。きれいな一本のラインが出来上がるんです。やっぱりいいものを作ろうとすると、全てつながっていくんですよね。」
「はさみを使っているけれども、我々の仕事というのは最終的には、スーツが出来上がってお客様に喜んでもらうこと。製図や裁断、縫製も全てがつながっていかなくてはいけません。」

きれいに型をとったり、きれいに生地を裁断したり、美しく縫製をしたり…1つ1つの技術も大切ですが、最も大切なことはその全てが噛み合って、お客様の満足につながること。どれだけ技術が優れていても最終的なゴールが見えていなくては、お客様が満足することはありません。はさみを手にしているときも、お客様の満足を見据えて作業されているのだろうなと感じました。

最後に

裁断という作業はお客様の満足を生み出すための1つの工程に過ぎません。しかし、その満足を最初に形に起こすのははさみでした。テーラーにおけるはさみとは、お客様の満足を具現化するための道具なのでしょう。